さとまめやのりまめなど、いわき市田人町で数多く の伝統野菜を栽培している蛭田チイさん。何十年もの 間、畑と向き合ってきたチイさんのもとには、作物の 栽培方法や調理方法、保存の知恵など知りたいと言う 人が、毎日やって来ます。このコラムでは、そんない わき昔野菜の生き字引とも言える蛭田チイさんの昔の 思い出と共に、郷土食や伝統食とはまた違った、いわ きの「食」をご紹介していきます。
チイさんがマヨネーズと出会ったのは、現在から約 60年前のことで、行商の人から購入したのが初めて だったそうです。最初に食べたときはあまりの美味し さに驚き、畑で収穫した野菜にかけたり、かけるもの がない時には味噌汁にまで入れたそうです。
そんなある日、“結” の作業に行ったお宅で、ポテトサ ラダが出されました。“結” とは、一人では時間も労力も かかる田植えなどの大がかりな農作業を、集落同士の 人間が協力しあって進めることを言います。「今日は誰々 の田んぼ」といった具合に、それぞれが助け合いながら 片づけていき、その日手伝う家では、お煮しめや煮豆、 山菜料理などを全員にふるまいます。ただし田植えの時 期などは、まだ春先で畑の作物が少なかったので、多く の家庭が保存食を利用した料理を振舞うなか、ある農家 で出された料理が大好きなマヨネーズを使ったポテトサ ラダでした。チイさんにとっては、記憶に残る何よりのご 馳走だったに違いありません。
現在のようにハムや卵が入ったり、彩り豊かなもの ではありませんでしたが「今でもあの時のポテトサラ ダが一番おいしかった気がする」とチイさんは言いま す。その名残でしょうか、お孫さんが来るときには、 今でもボウルいっぱいにポテトサラダを作り、振る 舞っているそうです。
<3月>霜柱の跡が消えた畑に堆肥を積んだト ラックがやってきます。畑を耕起し、畝 をたて、堆肥がすきこまれたらいよいよ 春の作付けのスタートです。
いわき昔野菜の圃場では、3月下旬にお くいもの作付けが始まります。
<4月>いわき昔野菜の「いわき一本太ねぎ」や
「金時豆」は、栽培者が播種日を4月 10 日と決めています。このほか「おかごぼ う」も4月初旬に直播きされます。とは いえ、遅霜の心配も残る4月。発芽に時 間のかかる「唐辛子」や「鷹の爪」、ウ リ科の中でも育苗に時間を要する「スイ カ」や「冬瓜」など、多くの作物はポッ ト播きされ、ハウスの中でじっくりと育 ちます。秋播きの「おいしいな」や「カ ラシナ」「三つ葉」、畑の穴の中で越冬し た「ウド」など香り高い作物が収穫期を 迎えるのも4月です。
<5月>気温が上昇し、地温も安定してくる5月。
「親孝行豆」や「宮下一号」などのイン ゲン類、「さとまめ」や「のりまめ」な どのダイズ類、「じゅうねん」「落花生」「ユ ウガオ」「キュウリ」…と、ハウスも畑 も播種期を迎える作物のラッシュです。 秋播きの「エンドウ」は赤紫色の花を次々 とつけ、農繁期の到来を告げます。
畑 の 暦
春
蛭田チイさんの思い出は食と共に
春
◆“結” とポテトサラダ
春
◆“結” とポテトサラダ
<蛭田チイさんプロフィールは P62 をご覧ください>
※写真はイメージです
ララシャンスいわき
片
平
裕
之
ユウガオ
永崎には、100年以上続く夏の風物詩がありま す。かんぴょう作り――ユウガオの実を薄く削り、 二日間天日干しするその光景は、「朝飯前の磯稼ぎ
(磯辺付近の早朝農作業)」として、かつては地域 のいたるところで見ることができました。
しかし、かんぴょう作りは根気も体力も必要と します。バスケットボールほどのユウガオを輪切 りにし、手カンナと呼ばれる道具で薄く削りだす 作業は、見た目以上に重労働です。削ったかんぴょ うを竹竿に干す時には、かんぴょう同士が風でくっ つかないよう常に目を配る必要があります。そう した手間がかかることもあり、永崎でユウガオを 栽培している生産者は、いつしか数軒を残すのみ となりました。また、ユウガオを見たことがない、 食べ方がわからないという人も多く、先人たちが 残してきたものが風化しようとしています。
一つの伝統野菜が無くなるということは、その
作物の栽培方法、食べ方、保存の知恵など、伝統 的な技術や作物に関する全てが失われてしまうと いうことです。この大きな損失を防ぐためには、 今の時代に受け入れられやすい新しい食べ方を広 めたり、楽しみながら技術を習得できる機会を設 けることが求められます。
片平裕之シェフの作る「ユウガオの冷製カッペ リーニ」は、トロリとした食感でクセの無いユウ ガオの特徴を活かし、農家の間で昔から作られて きた「ユウガオの煮物」を洋風にアレンジして、 馴染みのなかった人でも、家庭で真似したくなる ような工夫が施されています。
このような料理は、きっと多くの人にユウガオ の魅力を伝え、古くから受け継がれてきた伝統野 菜や、地域の食文化を見直すきっかけとなること でしょう。「新しき」を訪ね「古き」を知る料理が、 片平シェフの手によって誕生しました。
ユウガオ生産者の作山さんと片平シェフ
永崎川畑地区で代々栽培されてきたユウガオ。夏の夕方 に花をつけることから、その名がつけられたと言われて います。一般的にはかんぴょうが有名ですが、煮物やひ き肉と炒めたあんかけ料理など、様々な料理に使われて きました。ワタの部分を味噌汁の具にする食べ方は、生 産者オススメの絶品料理です。
「新しき」を訪ね、「古き」を知る。
作山さんのかんぴょうは市販の ものより薄く削ってあるため、 ほんの数分水に浸すだけでやわ らかくなります。水でもどした かんぴょうを千切りにし、塩少々 でもんで、約10分おくだけで「か んぴょうの浅漬け」の出来上が りです。味や香りにクセがない ので、もみ込む際に顆粒だしを 用いたり、食べる時に醤油や酢 をかけても美味しく食べられま す。手軽に作れる一品をご家庭 でも是非お試しください。
畑 生 ま れ の 一 品 かんぴょうの浅漬け 15
ユウガオの冷製カッペリーニ
作り方
ユウガオ 120g
カッペリーニ 120g
塩 適宜
トマト(中) 1 個
深山田にんにく 1 ~ 2 片
グラニュー糖 8g
水 100 ㏄
チキンブイヨン(顆粒) 4g
レモン汁 4 ㏄
エキストラヴァージンオリーブオイル 12g
生ハム 8 枚
バジル 4 枚
ワサビダイコン 適宜
材 料 4人分
❶
ユウガオは皮を剥き、スライサーで千切りにした あと、流水にさらしておく。❷
トマトは熱湯に 3 ~ 4 秒サッと湯通しし、氷水で 冷やし、湯むきする。その後 2 ~ 3cm角に刻ん でおく。❸
❷にニンニクを軽くつぶしたものを加え、塩・グ ラニュー糖で調味しておく。❹
鍋に水とチキンブイヨンを入れ、沸騰したら、ユ ウガオを入れ透明になるまで軽く煮込む。❺
❹を氷水にあてたボウルで冷し、レモン汁を加え る。❻
大きめの鍋に七分目くらいの湯を沸かし、海水よ りも薄めの塩気まで塩を入れ、カッペリーニを茹 でる。茹で終わったら氷水で冷やしておく。❼
❻に、❸のトマトを加えて良く混ぜ、オリーブオイ ルを加えて乳化させておく。さらに、❺のユウガオ のみを取り出して合わせ、皿に盛り込む。❽
水分をきったカッペリーニを更に盛り、上から❺の スープを適量かけ、生ハム・バジルを飾る。すりお ろしたワサビダイコンを全体に散らせば出来上がり。❸
❶
❺
❸
❶
❺
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ユウガオの冷製カッペリーニ
作り方
ユウガオ 120g
カッペリーニ 120g
塩 適宜
トマト(中) 1 個
深山田にんにく 1 ~ 2 片
グラニュー糖 8g
水 100 ㏄
チキンブイヨン(顆粒) 4g
レモン汁 4 ㏄
エキストラヴァージンオリーブオイル 12g
生ハム 8 枚
バジル 4 枚
ワサビダイコン 適宜
材 料 4人分
❶
ユウガオは皮を剥き、スライサーで千切りにした あと、流水にさらしておく。❷
トマトは熱湯に 3 ~ 4 秒サッと湯通しし、氷水で 冷やし、湯むきする。その後 2 ~ 3cm角に刻ん でおく。❸
❷にニンニクを軽くつぶしたものを加え、塩・グ ラニュー糖で調味しておく。❹
鍋に水とチキンブイヨンを入れ、沸騰したら、ユ ウガオを入れ透明になるまで軽く煮込む。❺
❹を氷水にあてたボウルで冷し、レモン汁を加え る。❻
大きめの鍋に七分目くらいの湯を沸かし、海水よ りも薄めの塩気まで塩を入れ、カッペリーニを茹 でる。茹で終わったら氷水で冷やしておく。❼
❻に、❸のトマトを加えて良く混ぜ、オリーブオイ ルを加えて乳化させておく。さらに、❺のユウガオ のみを取り出して合わせ、皿に盛り込む。❽
水分をきったカッペリーニを更に盛り、上から❺の スープを適量かけ、生ハム・バジルを飾る。すりお ろしたワサビダイコンを全体に散らせば出来上がり。❸
❶
❺
❸
❶
❺
カボチャと金時豆のようかん
作り方
カボチャ 80g
牛乳 20 ㏄
砂糖 24g
水 100 ㏄
粉寒天 1.6g
金時豆 20g
水 200 ㏄
砂糖 20g
材 料 4人分
❶
金時豆は、前日にたっぷりの水で戻しておき、分 量の水と砂糖でやわらかくなるまで煮込む。❷
カボチャは、電子レンジでやわらかくなるまで加 熱するか、蒸し器で蒸す。❸
❷を潰し、牛乳で軽くのばして滑らかにしておく。❹
鍋に水、粉寒天を入れて沸騰させる。❺
❹にカボチャ、砂糖を入れてのばしながら混ぜる。❻
型の底に、煮込んだ金時豆を敷き、一度漉した❺ を流し込み冷やす。❶
❻
❸
❶
❻
❸
M E M O
いわき昔野菜のカボチャはホクホクとした食感が 特徴です。漉しづらい時は、一度ミキサーにかけ ると滑らかになります。
ようかんの型は、小鉢や タッパーなどで構いません。
こ
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<6月>豆類では一番遅いアズキ類の播種が始ま ります。「十六ササゲ」の種も6月中に 播き終えます。入梅期を迎え、まだ小さ な苗に病気が入らないか、害虫がついて いないか心配な時期でもあります。おく いもの土寄せや、おかごぼうの周辺の畑 の耕起もこの時期に忘れてはいけない大 切な作業です。秋に植え付けをした「ニ ンニク」の葉や茎は徐々に変色し収穫期 を知らせてくれます。
「いわき一本太ねぎ」の定植が終わると<7月> 定植作業はひと段落。しかし休む間もな く、畑では雑草との闘いが待っています。 作物の生育の妨げとなる雑草は取り除 き、葉の色や花の付き具合を観察しなが ら不足の養分を補います。生育旺盛な「小 白井きゅうり」「昔きゅうり」はこの時 期は毎日が収穫日です。4月に播いた金 時豆は、莢が淡い茶色に変色したら収穫 します。
<8月>夏のいわき昔野菜が収穫のピークを迎え ます。大きなユウガオが実り、栽培者宅 ではかんぴょう作りが始まります。十六 ササゲも次々と莢を伸ばし、盆のご先祖 様を迎える支度が整います。「蕎麦」は 秋の彼岸から40日遡った頃が播種期で す。「ラッキョウ」も盆の16日に植え付 けると1粒が16粒に増えると言われて います。世間は盆休みに入りますが、農 作業は続きます。
COLUMN
畑 の 暦
チイさんと作物の繋がりは、「食べる」だけではあ
夏
りません。例えば、身体を冷やす効果があると言われ ているキュウリは、チイさんの家では食用以外の使い 方をしていました。
夏のうだるような暑さと強い日差しの下での農作業 は、心身ともに大変です。いわき市の一部の地域では、 熱中症や日射病など暑気当たりになることを「あつけ こむ」と言いますが、チイさんも幼い頃、外で遊んだり、 農作業や家事の手伝いをした後に、あつけこんで、身 体の調子が悪くなってしまうことがあったそうです。 そんな時にはよく母親から、塩で揉んだキュウリの葉 からとれる汁を全身に塗ってもらいました。
新鮮なキュウリの葉にはびっしりとうぶ毛がついて いるため、身体中がむずがゆく気持ち悪かったそうで すが、夜に塗れば翌朝には「あつけこむ」の症状が、 けろりと治っていたというから驚きです。
キュウリの葉のほかにも、熱冷ましの薬としてゴボ ウの種を煎じた汁をよく飲まされたと言います。「良 薬口に苦し」だったのでしょうか。肝心の味は “にがっ ぽく” あまり好きではなかったそうですが、このゴボ ウの種のお茶もとてもよく効いたそうです。
上記の治療法はあくまでも民間療法であり、必ずし も効果が期待できるとは限りません。しかし、チイさ んが若かりし頃は、現在ほど病院が身近な存在ではな く、薬も手に入りづらい中で、身近な作物を用いて病 気を治そうという知恵と経験こそが、人々の健康を支 えていました。自然と共に歩んでいた時代の先人たち の逞しさが感じられるエピソードです。
蛭田チイさんの思い出は食と共に
夏
◆キュウリとあつけこむ
夏
◆キュウリとあつけこむ
<蛭田チイさんプロフィールは P62 をご覧ください>
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